季節の言葉

2014.02.24

露霜【つゆじも】 文・山下景子

 端に霜のことをいう場合や、霜と霜のことをさす場合もありますが、普通は、露が凍りかけて、半ば霜になった状態をいいます。
 また、歳月という意味も持っています。「星霜(せいそう)」などと同じように、このふたつで、めぐる年月日をあらわしたものです。
 はかない命の象徴である露と、白髪(しらが)にもたとえら、厳しいことを暗示する霜。歳月を「露霜」といえるのは、悲しいこと、つらいことを乗り越えてきたからこそなのでしょう。

*季刊SORA2013秋号掲載(文・山下景子)

2013.11.11

雁の涙【かりのなみだ】 文・山下景子

 露には、「雁の涙」という異称もあります。露がたくさんおりる秋は、ちょうど雁が渡ってくる季節。悲しげに鳴く雁の涙にたとえたというわけです。
「鳴きわたる雁の涙や落ちつらんもの思ふやどの萩の上の露」 詠み人しらず『古今和歌集』
 それにしても、かつては、日本中、どこへでも渡ってきたという雁。今では一部の地域へしか、来なくなってしまいました。涙だけは、落ちているのですが......。

*季刊SORA2013秋号掲載

2013.10.04

甘露【かんろ】 文・山下景子

 不老不死の霊薬(れいやく)があるとすれば、それはどんな味がするでしょう。
 昔の人が想像したのは、甘い味だったようです。その霊薬を、甘い露、つまり「甘露」と呼びました。最初は、お酒のことをいったのかもしれません。百薬の長とも呼ばれますものね。
 次第に、食べ物がおいしい時にも、「甘露、甘露」というようになりました。おいしいと思って食べれば、寿命が延びる......。これも納得できますね。

*季刊SORA2013秋号掲載

2013.07.10

姫蛍【ひめぼたる】 文・山下景子

「源氏蛍」や「平家蛍」の幼虫は、水生ですが、陸生の蛍もいます。その代表が「姫蛍」。体が小さいので、この名がつきました。
 姫蛍は、雄雌とも光ります。ただ、雌は飛ぶことができず、雄もその近くを飛び交うため、藪の中に光の帯ができます。まるで地上に横たわる天の川。時おり、さっと光が流れて消えます。雄が、雌めがけて急降下するからです。姫蛍の恋が実った瞬間の輝き。本物の流れ星より願いが叶うかもしれませんね。

2013.04.24

萌野【もえの】 文・山下景子

「萌野ゆき紫野ゆく行人(かうじん)
 霰(あられ)ふるなりきさらぎの春」 与謝野晶子

「萌野」は、草が芽吹き始めた野原のこと。やがてその芽ものびて、「若草野」と呼ばれるようになるのでしょう。
 土筆(つくし)がいっぱい生えている野原は「土筆野」。蕨(わらび)なら「蕨野」。ほかにも、「春野」や「弥生野(やよいの)」など、耳にするだけで、明るい色彩と、やわらかな風が感じられます。

*季刊SORA2013春号掲載

2013.03.13

野つ鳥【のつとり】 文・山下景子

「つ」は「の」という意味の助詞ですから、「野の鳥」。特に、雉(きじ)をさすときに用いられます。
 古くは「きぎす」といいました。「焼け野の雉(きぎす)、夜の鶴」といって、雉は、野が焼かれても、我が身の危険をかえりみずに巣を守るそうです。
 凍(い)てつく夜も翼で雛(ひな)を懸命にあたためる鶴とともに、親子の情愛が深い鳥とされます。高らかに雌を呼ぶ鳴き声から、「妻恋鳥(つまごいどり)」とも呼ばれる雉。野で豊かな愛情をはぐくんでいるのでしょうね。

*季刊SORA2013春号掲載

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