季節の言葉

2011.11.21

虫養い【むしやしない】 文・山下景子 

 見たことはなくても、みんなよく知っている腹の虫。そこで、食べ物を少し入れて、腹の虫が鳴くのを抑えることを、「虫養い」「虫押さえ」などといいました。昔の人は、自分でコントロールできないことは、身体の中に住んでいる虫の仕業だと考えていたようです。「虫が好く」「虫の居いどころ所」などの慣用句は、今でもよく使いますね。
 腹の虫は、秋になるととくによく鳴くようです。とはいえ、「虫養い」が過ぎないようにご用心。

2011.11.14

虫聞き【むしきき】 文・山下景子 

 春に花見をするように、昔の人は、秋には「虫聞き」もしたそうです。夕暮れ時に、虫の声に耳を傾けながら、野山に集ったり、散策したり......。なんとも優雅ですね。
「わがために来る秋にしもあらなくに
虫の音聞けばまづぞかなしき」
よみ人しらず『古今和歌集』
 次第に、寂しさがまさっていく秋。虫たちは、そんな季節を共感し合える心の友でもあったのでしょう。

2011.11.07

月鈴子【げつれいし】 文・山下景子 

 鳴く虫の代表のようにいわれてきた「松虫」と「鈴虫」。
『枕草子』にも、「虫は鈴むし。ひぐらし。蝶。松虫」と書かれています。ところが当時は今と逆で、「リーン
リーン」と鳴くのが松虫、「チンチロリン」のほうが鈴虫だったそうです。それにしても、都会の草むらでは、どちらも聞こえなくなってしまいました。
 鈴虫には、ほかに、「月鈴子」という異称もあります。たしかに、虫籠ではなく、月の光の下で聞くのがぴったりの、澄みきった音色です。

2011.10.31

虫集く【むしすだく】 文・山下景子 

「集く」は、多くのものが群がり集まるという意味でしたが、いつしか、集まって鳴くという意味に使われるようになりました。
 その声を時雨にたとえて、「虫時雨」ともいいますね。秋の夜長、草むらから強く弱く、断続的に聞こえてくる虫の音。虫たちが奏でる秋のフィナーレのようです。

2011.10.24

夢虫【ゆめむし】 文・山下景子 

 中国の荘子が、蝶になった夢を見たという故事から、蝶は「夢見鳥」、「夢虫」とも呼ばれます。
 春の季語ですが、実際には、厳寒の時期以外、一年を通して見かけますね。特に秋の蝶は「老蝶」、冬は「凍蝶」とも呼ばれてきました。
 ひらひらと舞い飛ぶ蝶に、夢を重ねて見れば、季節ごとに違った趣が感じられませんか。
「何事の心いそぎぞ秋の蝶」 正岡子規

2011.10.11

機織【はたおり】 文・山下景子 

 ややこしいのですが、昔は、鳴く虫の総称が「蟋蟀」で、蟋蟀のことを「螽蟖」、螽蟖のことを「機織」と呼んでいたそうです。螽蟖の「ギィース、チョン」という声を、機織りの音になぞらえたもの。ほかに、「機織女」とも呼ばれました。
「秋来ればはたをる虫のあるなへに唐からにしき錦にも見ゆる野のべかな辺哉」 紀貫之
 なるほど、鮮やかな紅葉は、機織女たちが織り上げた錦なのですね。

前のページへ 2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12
pagetop

株式会社 IDP出版
〒107-0052 東京都港区赤坂6丁目18番11号 ストーリア赤坂402
電話 : 03-3584-9301 FAX : 03-3584-9302