季節の言葉

2012.03.19

氷面鏡【ひもかがみ】 文・山下景子 

 言葉を聞いただけで、氷の表面が鏡になって、風景が映っている様子が思い浮かびます。じつはこの言葉、中世の歌人の造語だとか。万葉集に出てくる「紐鏡」は、儀式などに使う鏡で、紐をつけるようになっていました。この紐に「氷面」を当てたのですね。「紐」も、「氷」も、解けるもの。ですから、どちらも、「とく」を導く
言葉として、使われます。
「枝に今とけゆく花のひもかがみ結ぶやうつる春の池水」三条西実隆

2012.03.12

霧氷【むひょう】 文・山下景子 

「氷の花」といえば、氷の表面にできた模様のことをいうそうです。とはいえ、木々の枝がまっ白になって、一面花が咲いたような情景を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。これは、空気中の水蒸気が凍りついてできる現象で、生じ方によって、樹霜・樹氷・粗氷に分けられるのだとか。これらを総称したものが「霧氷」です。やはり、「霧氷咲く」という形でも、よく使われます。
「霧氷咲いてうすむらさきの朝日影」伊藤凍魚

2012.03.05

月下氷人【げっかひょうじん】 文・山下景子 

 月明りの下で、夫婦になる男女の足を赤い綱で結んでいく冥界の役人......。これが、「月下老人」です。
 また、氷の上に立って、氷の下の人と話をした夢を見たら、仲人をする予兆だった......。これが「氷上人」という故事です。
 このふたつの言葉を結合して、日本人は、仲人のことを「月下氷人」と呼ぶようになりました。なんだかロマンティックなご縁をとりもってくれそうですね。

2012.02.27

氷の声【こおりのこえ】 文・山下景子 

 大変寒いときには、何ともいえない音を立てて、氷が張っていくような気がします。それを昔の人は、「氷の声」という言葉であらわしました。
「声」というからには、何かしらメッセージを感じていたのかもしれません。厳しい冬を耐え抜く大自然のため息のような......。
 ほかにも、「霜しもの声」「雪の声」など、音なき音を聞き、声なき声を感じてきた日本人ならではの言葉ではないでしょうか。

2012.02.20

寒寒【さむさむ】 文・山下景子 

「さむざむ」と濁ると、いかにも寒そうな、荒涼とした風景が目に浮かぶのですが、濁らずに繰り返すと、ちょっとかわいい感じですね。
 じつは、氷のことをいう女房詞です。昔は、「寒い」という言葉を、「冷たい」と同じような意味で使っていました。現代人の感覚では、ぴんと来ないかもしれませんが、「青は藍より出でて、藍より青し」と同じ意味で、「氷は水より出でて水より寒し」(ともに荀子)ということわざもあるんですよ。

2012.02.13

水の衣【みずのころも】 文・山下景子 

 昔の人は、氷のことを、「水の衣」と表現しました。なるほど、寒いので、水も衣を一枚まとったのですね。
「氷の衣」という言葉もあります。寒さが厳しい日は、水に限らず、さまざまなものが氷の衣を着るようになりますね。
 ところで、平安の歌人は、月の光に照らされた衣のことも、季節に関係なく、「氷の衣」と呼びました。氷のように白く光って見えたからです。
「夏の夜の空さえわたる月かげに氷の衣きぬ人ぞなき」源仲正

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