季節の言葉

2013.03.05

野焼き【のやき】 文・山下景子

 春先に、野の枯れ草を焼くことを「野焼き」といいます。害虫を駆除し、その灰が肥料となって、草の発育がよくなるそうです。その歴史は縄文時代にさかのぼるとか。
「古き世の火の色うごく野焼かな」 飯田蛇笏
 野原一面にひろがっていく火は「野火」。野焼きのあとの一面黒くなった野は「末黒野(すぐろの)」と呼びました。そこから萌(も)え出る緑は、まるで希望の象徴のように見えたことでしょう。

* 季刊SORA2013春号掲載

2013.02.08

霜夜鳥 【しもよどり】 文・山下景子

 霜のおりるような寒い夜のことを「霜夜」といいます。昔はそんな夜に「千鳥(ちどり)」がよく鳴いていたそうです。そこから千鳥は「霜夜鳥」とも呼ばれるようになりました。千鳥の仲間には、冬は南方へ渡ってしまう種類も多いのですが、古くから冬のイメージが定着しています。

「ふけぬるか寒き霜夜の月かげもさしでの磯に千鳥なくなり」 頓阿(とんあ)

*季刊SORA2012冬号掲載

2013.01.31

霜の声【しものこえ】 文・山下景子

 底知れない静寂の中にも、日本人は音を聞いたようです。冷え冷えとした夜、霜がおりるような音ともいえない音を「霜の声」と形容しました。ほかに「雪の声」や「氷の声」という言葉もあります。
 それらは「音」ではなく「声」なのですね。きっと心の耳をすまして聴いていたのでしょう。大自然の息づかいを感じながら。
「灯を消せば歳月のこゑ霜の声」 古賀まり子

*季刊SORA2012冬号掲載

2013.01.08

霜日和【しもびより】 文・山下景子

「霜日和」「霜晴れ」という言葉があるように、霜のおりた日は快晴。身の引き締まるような冷気がかえって心地よく感じられる一日です。
「空色の山は上総(かずさ)か霜日和」 小林一茶
 とはいえ、日がのぼって霜がとけたあとの地面はぬかるみになってしまいます。これを「霜崩れ」といいます。「霜柱」を踏んでサクサクとした感触を味わうのも、霜崩れまでのつかのまの楽しみですね。

*季刊SORA2012冬号掲載

2012.12.04

青女【せいじょ】 文・山下景子

「青女」は、霜や雪を降らす女神のことです。転じて霜の異称にもなりました。青いイメージがいかにも幻想的です。誰も見たことのない青女。もしかしたら、雪女のように、美しくも恐ろしい存在だったのでしょうか。
 現実に戻れば、霜は農作物や草花に被害を与えるもの。その意味では恐れられていたといえます。

*季刊SORA2012冬号掲載

2012.12.04

三つの花【みつのはな】 文・山下景子

 草に霜がおりた時の美しさは、やはり花にたとえられました。「霜の花」「霜花(そうか)」、そして「三つの花」......。この「三つの花」は、六角形の結晶を結ぶ雪を「六(む)つの花」と呼ぶのに対してつけられた名前です。とはいえ、霜の結晶が三角というわけではなく、針状、柱状などさまざまな形になるとか。霜も雪と同じように空から降ると思われていたようですから、うっすらと積もったように見える霜は、つつましやかな花に見えたのでしょう。

*季刊SORA2012冬号掲載

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