季節の言葉

2015.10.19

機織【はたおり】 文・山下景子 

 ややこしいのですが、昔は、鳴く虫の総称が「蟋蟀」で、蟋蟀のことを「螽蟖」、螽蟖のことを「機織」と呼んでいたそうです。螽蟖の「ギィース、チョン」という声を、機織りの音になぞらえたもの。ほかに、「機織女」とも呼ばれました。
「秋来ればはたをる虫のあるなへに唐からにしき錦にも見ゆる野のべかな辺哉」 紀貫之
 なるほど、鮮やかな紅葉は、機織女たちが織り上げた錦なのですね。

2015.06.28

砌【みぎり】 文・山下景子

「みぎり」の語源は、水限。もともとは、水際や雨滴の落ち際をさす言葉でした。やがて、雨垂れを受けるために軒下に並べた敷き石や石畳のことも「みぎり」と呼ぶようになり、転じて、庭や境界という意味でも使われるようになります。現在では、「時」「頃」「折り」と同様に用いられますね。
 蒸暑の砌、くれぐれもお身体大切になさってください。

*季刊SORA2011梅雨号掲載

2015.04.09

残花【ざんか】 文・山下景子

「夏山の青葉まじりのおそ桜
はつ花よりもめづらしきかな」 藤原盛房

 「遅桜」は遅咲きの桜のこと。「余花」ともいいます。咲き残った桜は「残花」「名残の花」。やがて「桜蘂」を降らせて、「葉桜」となります。それでも桜は桜。昔の人は、盛りを過ぎた桜も、愛情を込めて眺めていたようです。

「盛りをば見る人多し散る花の
あとを訪うこそ情なりけれ」 夢窓疎石

*季刊SORA2011春号掲載

2015.03.12

野つ鳥【のつとり】 文・山下景子

「つ」は「の」という意味の助詞ですから、「野の鳥」。特に、雉(きじ)をさすときに用いられます。
 古くは「きぎす」といいました。「焼け野の雉(きぎす)、夜の鶴」といって、雉は、野が焼かれても、我が身の危険をかえりみずに巣を守るそうです。
 凍(い)てつく夜も翼で雛(ひな)を懸命にあたためる鶴とともに、親子の情愛が深い鳥とされます。高らかに雌を呼ぶ鳴き声から、「妻恋鳥(つまごいどり)」とも呼ばれる雉。野で豊かな愛情をはぐくんでいるのでしょうね。

*季刊SORA2013春号掲載

2014.05.19

潮騒【しおさい】 文・山下景子

「しおざい」ともいいます。潮が満ちてくる時にザザーッと波が騒ぎ立てる音のことで、「潮騒ぎ」が変化したのではないかといわれます。でも、騒々しい音ではなく、むしろ、静けささえ感じさせてくれる音ですね。潮といっしょに、安らぎが満ちてくるようです。

「潮干(しおひ)なばまたもわれ来(こ)むいざ行かむ沖つ潮騒高く立ち来(き)ぬ」 作者不詳『万葉集』

2014.05.09

忘れ潮【わすれじお】 文・山下景子

 潮が引いた後、磯や干潟などにできる水溜まりを「潮溜(しおだまり)」、そこに溜まっている海水を「忘れ潮」といいます。波の忘れものと考えられたわけですね。のぞき込んでみると、海水だけでなく、小魚や海藻や小さな生き物がいっしょに忘れられていることも......。思いがけない発見がある場所です。

「青海苔(あおのり)や石の窪(くぼ)みのわすれ汐(じお)」 
高井几董(たかいきとう)

*季刊SORA2014春号掲載(文・山下景子)

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11
pagetop

株式会社 IDP出版
〒107-0052 東京都港区赤坂6丁目18番11号 ストーリア赤坂402
電話 : 03-3584-9301 FAX : 03-3584-9302